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浦和地方裁判所 昭和34年(モ)82号 決定

申立人 戸井田勝斉 外二名

主文

本件申立はこれを却下する。

理由

本件申立の要旨は、当庁に係属中である昭和三三年(行)第六号懲戒処分取消請求事件に関し、その担当裁判官である判事藤井一雄、判事補川名秀雄、同宮下勇(以下三裁判官と略称する)は浦和地方裁判所に所属するところ、昭和三二年一二月一九日および昭和三三年三月一〇日の同裁判所裁判官会議において右懲戒処分取消請求事件の争点である裁判書原本作成事務等に関する一致した見解がとられた結果、少くとも司法行政事務については、その見解に拘束されこれと同一の見解をとるべき立場にあり、一方、右見解に基いて申立人等が本件の処分を受けるにいたつたものであり、又、右事件の被告浦和地方裁判所長前沢忠成は、右裁判官会議を総括し、かつ、上司として三裁判官等を統轄しているのであつて、右は、裁判の公正を妨ぐべき事情にあたるから三裁判官を忌避するというにある。

しかし、三裁判官が司法行政事務については右裁判官会議の一致した見解に拘束されるとしても、裁判官会議の構成員ないしは司法行政に関与する裁判官と、裁判機関たる裁判所を構成する裁判官は全く別個の地位に立つものであつて、後者が、裁判官会議のいかなる決議にも拘束を受けるものでないことは裁判の性質上当然のことであり、又、裁判官が裁判を行うにあたつては、その良心に従つて独立して職権を行うものであることは憲法七六条三項に明定してあるところであつて、前記事件の被告が右裁判官会議を総括し、かつ、司法行政機関たる裁判所の所長であると否とは、なんら裁判に影響するところがないのみならず、所長たる被告と右三裁判官とは司法行政上においても上司下僚の関係に立つものでないことは裁判所法八〇条、二九条、四八条、下級裁判所事務処理規則二〇条等に窺われる日本国憲法の下における裁判官の地位とその本質に照らして疑を容れないところである。

従つて、申立人等の申立てる事情はいずれも忌避の理由にはならないのであつて、そのほか右三裁判官にはその裁判の公正を妨ぐべき事情は認められないから本件申立は理由がないものとしてこれを却下する。

(裁判官 大中俊夫 田中寿夫 大関隆夫)

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